日本は超高齢社会を迎えました。今後もさらに高齢者は増え続け、いかに健康で長生きをするかが社会全体の課題となっています。
今までの歯科医療は、高齢になってもできるだけ長く自分の歯を使えるようにすることを、大きな目標に掲げていました。いわば、若い人たち向けの、将来に向けた治療が中心でした。もちろん、それは歯科医院にとって大切な役割です。
しかし、これからは高齢になり足腰が弱って通院が困難になった方や介護を必要とする高齢者の口の健康をいかに守っていくかが、歯科医師にとっての課題となっていくはずです。
特に介護を必要とする高齢者は、食べ物を飲み込みづらいなどの障害(嚥下障害)のある方が多く、気管に食べ物が入ってしまう誤嚥(ごえん)による肺炎や食べ物を喉に詰まらせることによる窒息、栄養や水分を十分に取れないことによる低栄養・脱水状態といった生命に関わるリスクを抱えています。
また、そうした高齢者は、食事を楽しむこともできない状態にあることも多いのです。
このような高齢者の歯科診療に関わる課題の解決には、在宅歯科診療が欠かせません。
ところが、現在在宅歯科診療に取り組む歯科医師は非常に少なく、十分な診療を受けられない高齢者が多いというのが実情です。
私たちは、こうした現状を何とかして変えたいと思っています。
一般の在宅医療において医師が担う役割は非常に幅広く、食の支援まで携わることは非常に難しいそうです。それならば、歯科医師がその責務を担うべきではないでしょうか。
具体的には、高齢者の食を支援する専門医になること、また、他の関係者と連携して食の支援をコーディネートする役目を担っていかなければならないと思います。
食を支援することで、誤嚥や窒息などの事故を防ぎ、高齢者は安全に安心して楽しく食事を取ることができるようになります。それは、ひいては医療費を抑制し、医療制度を守ることにもつながります。
生きていくうえで、食べることはとても重要です。高齢になっても食の楽しさを味わうことができるようサポートしていきたい。それが私たちの理念です。
訪問歯科診療は、体の不自由な方や高齢で通院が難しい方を対象にしています。このため、一般の歯科診療と違い、特別な知識と経験が求められます。
特に高齢の患者さんは、虫歯や歯周病の感染リスクも高いため、身のまわりの世話や介護をするご家族や介護施設の職員にも協力していただくことが必要です。
しかし、現実には介護は非常に忙しく、細かな部分にまで注意を払えないことが多いでしょう。歯のケアは、さまざまなお世話や介助のうちの1つに過ぎません。
ご家族や介護の方も決して手を抜くわけではないでしょうが、行き届かないこともあるでしょう。
私たちは、そうしたご家族や介護の方の負担を軽減するため、高齢者の医療をよく知り、豊富な経験を持つ歯科医師を中心としたチーム医療を展開しています。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とは、食べ物や飲み物などを飲み込むとき、誤って気管や肺に入ってしまうことで発症する肺炎です。
食べ物や飲み物を飲み込むことを「嚥下(えんげ)」といいますが、喉の筋肉が衰えるとうまく飲み込めなくなります。これを「嚥下障害」といい、食べ物や飲み物が食道へ入らずに誤って気管や気管支の中に入ってしまうことを「誤嚥(ごえん)」といいます。
このとき、食べ物などには唾液も含まれますが、唾液には多くの細菌が含まれます。この細菌が気管から肺に入り、細菌が繁殖すると肺炎を起こしてしまいます。
誤嚥性肺炎は非常に危険な病気で、何度も再発を繰り返すのが特徴です。
再発を繰り返すと、しだいに細菌が薬に対する抵抗力を増し、しだいに薬の効果が弱まっていきます。そして最悪の場合、死に至ります。
厚生労働省の統計では、日本人の死亡原因の第4位は肺炎で、肺炎で亡くなる人の90%以上は75歳以上です。90歳以上になると、死亡原因の2位が肺炎となり、高齢者にとっては非常に危険な病気です。
誤嚥性肺炎を防止するには、口の中を清潔にしておくことが大切です。また、飲み込む力を鍛える嚥下訓練も効果があります。
当院では、高齢者の嚥下機能の衰えを調べるため、内視鏡を使った検査を行っています。検査では鼻の穴から内視鏡を挿入し、食べ物を飲み込んだときの食道の動きを内視鏡を通じて映像で確認します。
検査の所要時間は約10~15分で、それほど苦しくはありません。
この検査では、嚥下機能が正常かどうかを調べ、誤嚥のリスクの高さを確認します。
また、どのような食事を取れば、誤嚥のリスクを低くできるのかも分かります。
検査で得られた情報をもとに、私たちは患者さんの体の状態や生活スタイル、体調などに合わせて口腔機能を改善すプログラムを、各個人に合わせて作成します。
そして、そのプログラムを着実に実行することで、誤嚥性肺炎のリスクをできる限り抑えていきます。
これまで歯周病は、口の中だけの病気と考えられてきましたが、近年、歯周病が全身の健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されるようになり、世界中で研究が進んでいます。
歯周病との関連性が報告されている疾病や健康上のリスクには、次のようなものがあります。
高齢になると、細菌に対する防御力が衰えてくるため、歯周病や虫歯によって、血液の中に細菌が混入することがあります。
本来、血液は無菌状態であるはずで、これによって菌血症(きんけつしょう)という病気が引き起こされます。
さらに、細菌が血管を通って心臓にまで届くと危険な状態です。発熱や全身の倦怠感(けんたいかん)といった症状が現れ、最悪の場合には脳梗塞や心筋梗塞、心不全を引き起こし、命を落としかねません。
この病気を「細菌性心内膜炎」といい、もともと心臓に疾患を抱える人は特に注意が必要です。
訪問資料の対象となるのは、介護を必要とされる方や体の障害によって通院が難しい方です。
訪問診療の内容は、主に次の通りです。
1. 虫歯や歯周病の治療や予防措置を行います
2. 入れ歯を作製し、修理や調整を行います
3. 口の中の汚れを落として清潔にし、感染症や誤嚥性肺炎を予防します
4. 嚥下障害の方にリハビリテーションを行い、誤嚥を防ぎます
訪問診療の治療費も保険が適用されます。通院時と同じ扱いになりますので、安心してご利用ください。
70歳以上の高齢者の医療費の自己負担は2割となっていて、現役世代並みの所得のある方は3割負担です。
75歳以上の後期高齢者の自己負担額は1割。やはり現役世代並みの所得のある人は3割を負担します。
また、1ヵ月の医療費の自己負担額には上限があり、上限額は、個人(または世帯主)の医療費総額が対象となり、上限額は所得額に応じて決まります。
一般所得者の場合、1ヵ月間の医療費負担額の上限は18,000円、低所得者は8000円です。
現役世代並みの所得の人は年収額に応じて、段階的に上限額が設けられています。
高齢者の医療費負担については、制度が複雑で国が制度変更を行うこともあります。
不明な点がございましたら、お気軽に尋ねください。
3割を自己負担。
自己負担はありません。
対象者は「心身障害者医療費助成申請書」を市区町村に提出している方に限ります。
ただし、自治体によって制度が異なり、一部を立替払いとしている自治体や、負担金が必要となる自治体もあります。立替金の場合は後日、返還されます。
介護保険の対象となる口腔内のケアもあります。
在宅診療でも、出張費や謝礼などは一切いただきません。
当院から半径16km以内にある患者さんの自宅・病院・施設が対象になります。
訪問診療をご希望の方は当院に電話でお申込みください。その時に症状やご要望をお伝えください。訪問の日時を決めさせていただきます。
予約の日時に当院から訪問チームが伺います。ご自宅以外でも、調整のうえで老人ホーム、病院などにも伺うことができます。
患者さん、またはご家族の方に問診票にご記入いただき、気になる症状やご希望を伺います。治療内容についてご相談したうえで、治療をご希望される方に対して治療を行います。
診療では、患者さんの体の状態、体調などに応じて、患者さんが楽な姿勢で診療を受けていただけます。寝たままの状態や車椅子に座ったままでも診療は可能です。
お口全体の歯や歯茎、口の中の機能をチェックし、一人ひとりに必要な治療と口腔ケア、嚥下訓練などを行います。
当院では、患者さんが抱えていらっしゃるお口のお悩みや疑問・不安などにお応えする機会を設けております。どんなことでも構いませんので、私たちにお話ししていただけたらと思います。
ご興味がある方は下記からお問い合わせください。